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第593号 2008(H20).01発行

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農業と科学 平成20年1月

本号の内容

 

 

厳しい変革で明日の農業を

チッソ旭肥料株式会社
代表取締役副社長 竹田 博

 新年明けましておめでとうございます。
 平成20年の年頭に当たり,「農業と科学」をご愛読頂いております皆様に一言ご挨拶を申し上げます。

 昨年は当社にとって非常に大きな変化のあった年であります。従来のチッソ旭肥料(株)は親会社であるチッソ(株)と旭化成ケミカルズ(株)が生産した肥料を販売する会社でありました。平成19年1月1日より両親会社の持つ肥料事業を分割し,チッソ旭肥料(株)に吸収し,製造・販売・研究を一体化した会社として,新しく出発することになりました。世の中のニーズの変化にいち早く対応できる体制で,お客様のご要望に応じていく決意であります。今後とも従来にまして宜しくお願い申し上げます。

 日本を含めて世界の経済は,原油の異常な高騰にもかかわらず,好調な状態でありました。その中で肥料用の原料資材(アンモニア,リン鉱石,カリ等)が,原油の異常な高騰と同様な従来にない大幅な値上げになりました。世界的な天然資源の独占化傾向はますます強くなり,今後原料資材の価格が下がることを期待することは出来ないかと思われます。
 そうした中で国内の農業は,寒暖の変化が例年に比して異なっており,かなりの季節ずれを感じましたが,農業生産全体としては概ね順調であったと思われます。しかしながら,農業経済としては生産資材の上昇,販売価格の据え置き状態で決して良い環境ではありません。

 世界的に農業を見てみると,世界的な食料の増産,化石燃料からバイオエネルギーへの代替化傾向等々,拡大生産への非常に大きな変化が起こりつつあります。国内の農業もその大きな流れの中で,食料自給率の向上,バイオエネルギー用の作物増産増収の動きが大きくなってくるものと思われます。この流れの中で,肥料に対し従来以上に重要な機能-吸収効率の高い,流亡の少ない,環境に優しい等-が求められるものと思われます。
 当社の溶出を精微にコントロールしたコーテイング肥料「LPコート®」「ロング®」は上述の重要な機能を有しております。このコーティング肥料の機能に磨きをかけて行きたいと考えています。
 当社は,この他にも肥効調節型緩効性窒素肥料「ハイパーCDU®」,緩効性窒素肥料「CDU®」,打ち込み型根圏肥料「グリーンパイル®」,硝酸系高度化成肥料「燐硝安加里®」,高性能育苗培土「与作®」等々,機能性を重視した肥料・農業資材をご用意させて頂いております。

 今後とも全社一丸となって皆様のご期待に沿うよう努力をしてまいります。宜しくご指導ご鞭撻をお願いいたします。本誌「農業と科学」も合わせて充実をさせてまいりますので,皆様方の一層のご協力を併せてお願い申し上げます。

 

 

パン用小麦キタノカオリの葉色診断と施肥法

北海道農業研究センター根圏域研究チーム
チーム長 建部 雅子

 日本の小麦はめん用品種が育成の主体であったが,近年各地でパン用品種が育成されるようになった。キタノカオリ1)は2003年に北海道の奨励品種となったパン用品種である。パン用小麦のタンパク質含有率はめん用小麦より高いおよそ12%以上が要求される。高タンパク質子実を得るためには窒素施用量を増す必要があり,特に穂揃期追肥の効果が高い2)。しかし,窒素施用量を増すと,小麦が吸収しきれない窒素が土壌に残存するおそれが出てくる。そこで,タンパク質含有率を必要なレベルまで高め,なおかつ施用した窒素を土壌に残さないための葉色診断技術3)を作成したので,紹介する。

止葉期までの窒素施用量

 北海道道央地帯の秋まき小麦は9月中下旬に播種し,根雪の消える4月始めが起生期である。キタノカオリでは5月始めに幼穂形成期,5月末に止葉期となり,その10日後くらいが穂揃期で,7月末に収穫期となった。播種期には4kg/10aの窒素を基肥で施用し,起生期以降の追肥窒素施用量を変えて2000年播種から2003年播種まで4年間行った試験結果を表1に示す。試験を行った北海道農業研究センター圃場(北農研圃場)は淡色黒ボク土壌で,熱水抽出窒素が4.1~5.4mg/100gであり,現地の北村圃場は泥炭土で,熱水抽出窒素が6.0~8.3mg/100gと現地圃場の窒素肥沃度が高かった。

 表1より,止葉期までに窒素22kg/10a(基肥,起生期,幼穂形成期,止葉期に各4,6,6,6kg/10a)と多量の窒素を施用すると高収量は得られたが,必ずしも12%以上のタンパク質含有率は得られなかった。そこで,止葉期までは16kg/10a程度の
施用とし,あとは穂揃期追肥に回す必要がある。16kg/10a(基肥,起生期,幼穂形成期,止葉期に各4,6,0,6kg/10aなど)の窒素施用では北農研圃場では12%以上のタンパク質含有率は得られず,一方,窒素肥沃度の高い北村圃場では12%以上のタンパク質含有率が得られる場合もあった。そこで,穂揃期には一律の追肥は行わず,小麦の窒素栄養状態を葉色で診断し,追肥の判断をするのが望ましい。

葉色とタンパク質含有率との関係

 止葉期まで追肥を行い,その後,穂揃期の葉色を葉緑素計SPAD502で測定した。すると,図1に示すように,穂揃期の葉色と窒素吸収量との間には密接な関係があり,穂揃期の葉色はその時点までに吸収した窒素量をよく反映した。

 そして,穂揃期の葉色値が高いほど収量は増加した(図2)。

 タンパク質含有率もまた,図3に示すように穂揃期の葉色値が高いほど上昇した。2001年播種は好気象条件により特に高収量が得られたため,タンパク質含有率が高まりにくい年であった。その年を除くと,穂揃期の葉色が52以上であるならば,収穫期にタンパク質含有率は12%を超えた。

 また,図4に示すように,さらに穂揃期に追肥することによってタンパク質含有率は上昇した。上昇程度は穂揃期の葉色が低いほど大きく,また,追肥量が3kg/10aより6kg/10aで大きかった。そして,葉色値が50未満では6kg/10aの追肥で,また,葉色値50~52では3kg/10aの追肥でタンパク質含有率は12%を超えた。

葉色診断の適用条件

 もし,穂揃期までの窒素吸収量が少ない場合は,さらに追肥をすると窒素が土壌に残るおそれがある。したがって,穂揃期の追肥はそれまでの窒素吸収が順調な場合に限って行って良いと考える。小麦にとって好適な気象条件で,一定以上の収量が得られた本試験の範囲では,穂揃期までの吸収窒素は施用窒素量の6割以上であった(表1)。
 そこで,穂揃期に施用窒素量の少なくとも6割の窒素を吸収していることが,その後の順調な窒素吸収に必要な条件と考えた。穂揃期までの窒素施用量が16kg/10aの場合,その6割は9.6kg/10aであり,穂揃期の窒素吸収量と葉色の関係(図1)から,葉色値は45と見積もられた。さらに,本試験の範囲の穂揃期茎数(表1)が確保されている場合に,穂揃期追肥を行っても良いと考える。

葉色診断基準値と施肥対応

 以上をまとめて,診断基準値を作成した。すなわち,穂揃期に展開第2葉の葉色を測定し,葉色値が52以上の時はそれ以上の追肥は行わない。葉色値が50~52の時は3kg/10a,葉色値が50未満の時は6kg/10aの穂揃期追肥を行う。本診断を適用する範囲として,穂揃期の茎数が460~690本/㎡(収穫期穂数440~640本/㎡)の範囲で,さらに穂揃期の葉色45以上の場合とする(図5)。

 キタノカオリにおいて子実タンパク質含有率12%以上を確保するためには,幼穂形成期の追肥量を控えながら止葉期までの窒素施用量を16kg/10a程度とし,穂揃期に本診断を適用して追肥の必要性や量を決めることが望ましい。

 この葉色診断は北海道道央地帯の水回転換畑に適用することとしている。なお, これまで,穂揃期以降の窒素追肥は葉面散布が効果的であることが知られており,追肥の方法としては硫安散布,尿素葉面散布のいずれでも良い。しかし,穂揃期以降なるべく早い時期に施用を終える必要がある。穂揃期の3kg/10aの追肥は2日,6 kg/10aの追肥は4~5日程度,収穫日を遅らせる。また,穂揃期の診断を確実なものにするため,止葉期追肥の時期が遅れないようにすること,病害虫発生圃場あるいは多発生が予想される圃場では穂揃期の追肥は行わないなどの注意が必要である。

参考文献

1)桑原達雄:北海道・パン用秋まきコムギ’キタノカオリ’の作出
  農業技術大系,作物編4,追録第25号,技271~281(2003)

2)建部雅子・岡崎圭毅・唐澤敏彦・渡辺治郎・大下泰生・辻博之:
  パン用秋まきコムギ「キタノカオリ」の収量,タンパク質含有率を高める窒素施肥法,土肥誌,77,273~281(2006)

3)建部雅子・岡崎圭毅・唐澤敏彦・渡辺治郎・大下泰生・辻博之:
  パン用秋まきコムギ「キタノカオリ」に対する葉色診断と施肥対応,土肥誌,77,293~298(2006)

 

 

被覆尿素(LP)を用いた
スイートコーンの全量基肥栽培

沖縄県農業研究センター
主任研究員 比嘉 明美

1.はじめに

 沖縄県におけるスイートコーンの産地は,本島南部の島尻マージ地域に集中している。この土壌は,透水性が良好で降雨による施肥窒素の流亡が多い。また,基肥に利用されている化学肥料のほとんどが速効性で水溶性であるため降雨により流亡しやすく,作物の必要とする時期には養分が不足しがちになり,追肥による施肥管理が必要になる。そこで肥料の溶出をコントロールできる肥効調節型肥料(被覆尿素肥料)を用いて,追肥労力の省力化,減肥による環境負荷低減化を目的に現地試験を実施した。

2.肥効調節型肥料(被覆尿素肥料)のタイプの検討及び窒素溶出率調査(埋設試験)

 使用する被覆尿素のタイプはスイートコーンの生育期間,生育特性から70日リニヤ型と60日シグモイド型の2タイプについて窒素溶出率調査(埋設試験)を行った。
 その結果70日リニヤ型は,秋作栽培期間80日間で約80%が溶出し,冬作栽培期間110日間で80%溶出した(図1)。

 60日シグモイド型の被覆尿素は秋作栽培期間80日間で60%,冬作栽培期間110日間で70%の溶出であった(図2)。

 秋作は播種当初気温,地温とも高く溶出も速やかであったが,冬作では播種時から生育初期にかけては地温が低く,窒素の溶出は抑制された。
 秋作の栽培期間は,品種や播種時期の違いによる差があり,現地糸満市で多く栽培されている品種の栽培期間は秋作75日~85日で,冬作は95日~115日であった。
 これらの溶出率調査結果と現地の栽培体系や栽培期間から,現地試験に使用する被覆尿素のタイプは70日リニア型とした。

3.試験方法

 2002年度は2作連続栽培で,秋作は圃場を整地後堆肥と肥料を条施し畦幅140cmで畦立て,ビニールマルチ,株間30cm・条間45cmの2条植えで10月に播種し1月に収穫した。冬作は秋作収穫後のビニールマルチの条問中央に孔を開け施肥し,収穫跡の株孔のとなりに孔を開け1月末に播種し,4月末に収穫した。2003年度は1作のみの栽培で2002年度秋作の耕種概要と同様に行いゴールデンウィーク時期の4月末に収穫した。両年とも被覆尿素区は緩効率50%,施肥窒素量は農家慣行区の2割~3割減とした(表1)。

 品種は2002年度の秋作,冬作とも「恵」を用い,2003年度冬作は「イェローセブン」を用いた。

4.試験結果

 スイートコーンの出穂期の草丈,1株乾物重を比較すると秋作,冬作ともに差はなかった。生育初期,収穫期においても処理の違いによる生育差はなかった。
 スイートコーンの収量は,2002秋作では両処理区ともに播種時期の気温が高く初期生育が促進され,収穫までの栽培期間も短縮されたが,スイートコーンの1果重は軽く収量は低くなった。冬作は播種時期が低温で初期生育が緩慢となり,収穫までの期間が長くなり,1果重が重く収量は高くなった。秋作,冬作とも処理による商品化収量,商品本数に差はなかった(図3)。

 スイートコーンの規格別割合は,2002秋作では両処理区ともL以下の小果が多く,2L(340g)以上の大果割合は低くなった。処理による差はなかった。冬作においては,両処理区とも2L以上の大果が多くなり,被覆尿素区が農家慣行区に優った(図4)。

 スイートコーンの規格別単価を基に収益性の評価を行った。スイートコーンの価格は,M規格の小果は安く,L,2Lと規格が大きくなると価格は上昇した。単純に規格別収量から収入を計算し,肥料価格を差し引くと規格別収量割合に差がない2002年度秋作は収益差はないが,2002冬作,2003冬作においては単価の高い大果が多くなったため,被覆尿素区は農家慣行区に比較して10a当たり30,000円以上の増収となった(表2)。

 栽培後の土壌の化学性では,肥料の残存を示すEC,水溶性硝酸態窒素濃度は秋作跡地では処理の違いによる差はなく,冬作においては農家慣行区で水溶性硝酸態窒素濃度が高い傾向にあった(表3)。

5.考察とまとめ

 スイートコーンの栽培では,栽培期間が短い秋作に比べ播種から収穫までの期間が長い冬作においては,施肥管理が大果収量に影響することが示唆された。肥効調節型肥料は,施肥のタイミングを逸することがなく窒素の供給がスムーズに行われ,大果が多くなると考えられる。このことから,スイートコーンの栽培期間が長くなる11月から1月の播種時期の栽培において肥効調節型肥料を利用すると増収効果が高まると考えられる。
 また,2002年秋作における窒素吸収量は,窒素量を減肥したにもかかわらず被覆尿素区は農家慣行区と同等であり,被覆尿素の施肥効率向上が示唆された。2002冬作,2003冬作についても同様の傾向を示した。さらに,栽培後土壌の肥料の残存を示すEC,水溶性硝酸態窒素濃度が農家慣行区より低く,減肥による環境負荷が軽減される。

 今回の現地試験では糸満農協(現JA)からの要望で秋作,冬作2作連続栽培では各々の作型に対して被覆尿素肥料を施肥したが,2作連続栽培での1回基肥栽培の適用性が確認されれば,更に省力化,減肥が図られ環境への影響も軽減されるものと考えられる。